したがって、税方式の年金に移行するのであれば、現在の所得税制を抜本的に改正して完全な総合課税制度を確立し、所得捕捉を完全に行なう必要がある。
言うは易く実現はきわめて困難な課題である。 「S会保険庁による保険料の徴収に問題が生じているから、徴収がより確実な税にしよう」と考えられているのであれば、まったくの見当違いだ。
S会保険庁が保険料の徴収能力を持っていないと判定されたのなら、それへの対処は、保険料を国税庁が徴収することである(事実、アメリカなどの制度はそうなっている)。 「保険料を国税庁が徴収すること」と、「保険料という考えをやめて税にすること」とは、別のものなのだ。
前者の場合、保険料納付と年金給付は関連づけられている。 保険料を納めなかった人、あるいは必要な期間納めなかった人には、年金は給付されない。
後者の場合、このような関連づけは存在しない。 したがって、「保険料方式でなく税方式がよい」というのは、「負担と給付のあいだに関連をつけなくともよい」という考えなのである。
そうした考えに立つなら、「なぜ関連づけないほうがよいのか」を、説得的に示さなければならない。 関連づけをしない給付は、「年金」という名称で呼ぶとしても、その実態は年金ではなく、高齢者を対象とする公的扶助である。
したがって、「高齢者だけを対象としてなぜ高額の公的扶助を行なわなければならないのか?(若年のワーキングプアをなぜ見捨ててもよいのか?)」を、説明しなければならない(私の考えでは、正当化できない)。 また、公的扶助に所得制約は不可欠だから、どのようにして実行するかを示さなければならない(私の考えでは、不可能である)。
先でも見たように、税で年金財政を賄う方式の提案が相次いでいる。 S会保険庁の資料によると、国民年金保険料の徴収率は、20代ではじつに30%程度でしかない。
驚くべき数字である。 こうした状況を見て、「保険料方式では必要な額を徴収できないから、より確実な財源としての税に転換しよう」という議論が出てくるのは、当然かもしれない。
新聞論調などにも、そうした考えがかなり見受けられる。 このような単純な論理で制度の基本を変えられるほど、問題は簡単ではない。
第一に、保険料方式からの移行に伴う公平維持の問題がある。 第二に、税方式では所得制限がこれまでは「関連づけが必要」として保険料方式を採ってきていたのだから、なぜ現時点でその考えを180度転換しなければならないのかを、説明しなければならないのでは、納得できる理由はないと。

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